楽しい実験「プラスチックの溶剤に対する溶性と耐性」 このエントリーをはてなブックマークに追加

久しぶりの実験シリーズ、今回はプラスチックの模型用溶剤(うすめ液)に対する溶性と耐性の実験です
「タイトルがすごく“実験”っぽいなー」なんて思いますが…
もちろんプラモ用途に限って楽しく紹介していきます

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実験方法

使用する道具
プラスチック素材は、
PS(ポリスチレン)、
ABS(アクリロニトリル Acrylonitrile、ブタジエン Butadiene、スチレン Styrene共重合合成樹脂)、
PE(ポリエチレン)の3種、
いずれも「PGユニコーンガンダム」のランナーの白(PS)、クリアピンク(ABS)、黒ポリキャップ(PE)を使用

溶剤は
ラッカー(アクリルラッカー)=ガイアカラー薄め液
エナメルタミヤカラー エナメル溶剤
アクリル(水性溶剤)=タミヤカラー アクリル溶剤
(工業用)ラッカーパナロックシンナー
ホームセンターなどで売っている模型用ではないラッカー
厳密にはスジボリ堂で購入した小分けされたものを使用
アルコール無水エタノール
薬局などで売っている純度の高いアルコール
タミヤのアクリル溶剤やクレオスの水性ホビーカラーはこれを水で薄めたようなもの

紙コップは汎用品の撥水加工のされたごく普通の紙コップを使用


実験手順(共通部分)
1.PS、ABS、PEを入れた紙コップに、溶剤を添加
2.30分漬け込んだのち、プラを取り出す

 ((溶性実験はこの状態を観察)
3.取り出したプラを12時間以上乾燥させる
  (耐性実験はこの状態を観察)

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・こちらのビーカーの10mlを目安に漬け込みます
 量自体はさほど影響しないのですが、ランナーが頭までつかる量を入れます

・漬け込み中は揮発しすぎないようにコップにフタをしておきます

・なお、漬け込み時、乾燥時共に乾燥器などで温めたりはせず、室温で置きます
 室温は30~35℃で、反応しやすい高温化ではあります


溶性実験

まずは溶剤がプラスチックをどれほど溶かすのか見ていきます

実験方法
1.PS、ABS、PEを入れた紙コップに、溶剤を添加
2.30分漬け込んだのち、プラを取り出す

実験結果
ラッカー(アクリルラッカー)
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PS =一見すると変化はない
ABS=表面がべたっと溶ける
PE =変化なし

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一見すると変化のないPS素材も、ラッカー溶剤が浸透した状態だともろくなってしまいます
力を加えると負担のかかりやすい部分から折れてしまいました

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ラッカー溶剤はABSの表面をを少し溶かします
画像でもランナータグの番号が曖昧になっているのが見て取れます


エナメル
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PS =こちらもパッと見は変化なし
ABS=一見、変化なし
PE =変化なし

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エナメルはPS素材を少し溶かします
表面が溶けて、全体的につやがなくなった状態になりました

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エナメルはラッカー以上にPS素材をもろくします
力を加えると軸が折れ、タグのような薄い部分はぼろぼろと崩れます

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意外にもABSにはさほど影響がないようです
拡大してみても変化は見られません


アクリル
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PS =変化なし
ABS=見た目には変化なし
PE =変化なし
少しだけABSがペタペタする気がしますが、ほぼ変化はありません


エコシンナー
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PS =接着剤のようにどろりと溶ける
ABS=PS同様、どろりと溶けるが、PSほどは溶けない
PE =溶けたPS、ABSがくっついただけで変化なし


アルコール
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PS =変化なし
ABS=見た目には変化なし
PE =変化なし

exp_thinner_d4.jpg
なんとなくABSはペタペタした感じになります
見た目には変わりありませんが、表面が少し溶けているのかもしれません


検証
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続いて、いくつか疑問の残った溶剤とプラの組み合わせを検証
溶剤を染み込ませたキッチンペーパーでランナーを拭き、影響を見ていきます


ラッカー(アクリルラッカー)×ABS
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ラッカー溶剤でABSを拭いた例
触れた瞬間に溶かすというほどではないのですが、当てているうちにべたべたとくっついてきます
拭いた部分(矢印方向)が曇ったような質感になっています


エナメル溶剤×PS、ABS
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エナメル溶剤でPS、ABSを拭いた例
PS、ABSともに矢印で示した右半分を拭いています
PSは表面が溶けて曇った質感に
ここでもABSには影響がないようです


アルコール×ABS
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アルコールでABSを拭いた例
ペーパーで擦っていてもほぼ影響はなかったのですが、
包むように数十秒当てているとべたべたとくっついてきました
アクリル溶剤もアルコール系なので、多少は影響すると思われます


なお、影響が明確な工業用ラッカーは検証なし、アクリルはアルコールで代用してます


考察
率直な感想として、PEってのはとても丈夫なのだなと
溶剤の容器にポリ容器が使われていることが多いことからも、その耐性の強さがうかがえます

プラスチックを溶かすということは、紙にインクが染み込むように、それだけしっかりと食いつくともいえます
ABSにラッカー(模型用)、PSにエナメルのような組み合わせはしっかりと強い塗膜が張れます
ただし、エコシンナーは乾燥時間が遅めで、ディテールまで溶かしかねないので注意が必要です
逆に全く影響を受けないPE素材はほぼすべての塗料の食いつきが悪いです



耐性実験1

続いて溶剤が浸透することによるプラへの影響を見ていきます
まずは負荷がかかりながら溶剤が浸透する場合について

実験方法
1.PS、ABSを入れた紙コップに、溶剤を添加
2.30分漬け込んだのち、プラを取り出す
3.取り出したプラを12時間以上乾燥させる

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耐性実験では画像のようなもの漬け込みに使います
3.5mmのランナーに、2mmの穴を2つあけ、一方に竹串を刺したものです
スナップフィットのようなダボを再現し、負荷を掛けながら溶剤を浸透させていきます


実験結果
ラッカー(アクリルラッカー)
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漬け込み直後の状態
PS =ダボ穴にキズのようなへこみができる
ABS=ダボ穴にひびが入る、さらに軸の負荷により曲がってしまう

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乾燥後の状態
PS =力を加えると簡単に折れる
ABS=PS以上に簡単に折れる


エナメル
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漬け込み直後の状態
PS =ダボ穴にひびが入る
ABS=ひびなどのキズは発生しなかったが、ダボの部分から少し曲がる

exp_thinner_g3a.jpg
乾燥後の状態
PS =4種の組み合わせの中で最も簡単に折れた
ABS=見た目に影響はなかったが、力を加えると負荷をかけた方から折れた


考察
実験前は溶剤に漬け込んでいる間に自然と折れるのではないかと予想してましたが、
ひびが入る程度で、思ったほどの大きな影響はありませんでした
実際のスナップフィットはもっと負荷が強いのかもしれません

負荷をかけた方とかけていない方で影響の違いははっきりと現れました
負荷がかかっているとヒビ(クラック)が発生しやすいのは確かなので、
極力、負荷のない状態で塗装した方が無難です



耐性実験2

続いて漬け込み、乾燥後のプラの状態を見ていきます
乾燥後にプラに負荷をかけ、状態を比較します

実験方法
1.PS、ABSを入れた紙コップに、溶剤を添加
2.30分漬け込んだのち、プラを取り出す
3.取り出したプラを12時間以上乾燥させる
4.取り出したプラを曲げてみる

ランナーはPS、ABS共に太さは3mmで、キズやゲートのない部分を選んでいます

曲げるスピードは緩やかに力を加えてゆっくり曲げていきます
もちろん、強い力で早く曲げた方が折れやすくなります


実験結果
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左は比較用の漬け込み前、右はラッカー、エナメルにそれぞれ漬け込み、乾燥させたものの画像
漬け込み直後、未乾燥の状態だとこのくらい曲げると折れますが、乾燥後であれば耐えてくれます


ここからさらに折れるまで曲げてみます

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左は漬け込み前、右は漬け込み・乾燥後の画像
曲げたうえでさらに戻していった例
いずれも漬け込み前より早い段階で折れてしまいました

漬け込み前
PS =90度曲げ、さらに逆方向に90度曲げ、元に戻すところまで耐えた
ABS=同じく、90度曲げ、さらに逆方向に90度曲げ、元に戻すところまで耐えた

PS、ABSともに何度か曲げてようやく折れました


ラッカー
PS =90度以上まで曲げ、更に逆方向に曲げようとしたところで亀裂が発生
ABS=90度以上まで曲げ、同じく逆方向に戻すと亀裂、更に曲げたところでで折れた

ABSは断面に気泡があったため、それが原因かもしれません
PSと同様、元に戻すところまで耐えた例もありました


エナメル
PS =90度以上まで曲げ、元に戻す途中で折れた
ABS=同じく90度までは耐えたものの、元に戻そうとすると折れた

エナメルに漬け込んだ場合、曲げているとエナメルの溶剤臭が微かにしました
室温30℃下で12時間以上は乾燥させていたのですが、まだ乾燥が不完全だったことも一因かもしれません

[参考]完全乾燥について
塗料の乾燥状態は大まかに「指触乾燥」と「完全乾燥」に分けられます。
「指触乾燥」は文字通り指で触っても平気な状態で、溶剤分にもよりますが30分~1時間後の状態です。
「完全乾燥」とは塗膜の溶剤分が完全に抜けることをいいます。
ラッカーが完全乾燥するのは約1週間、あるいは1ヶ月以上ともいわれ、エナメルもほぼ同様です。
今実験では溶剤臭がしなくなるまで待ったのですが、完全乾燥とはいえない状態でした。


まとめ[耐久力を曲げた角度の合計で示した表]
素材\溶剤漬け込み前ラッカーエナメル
PS45018090
ABS54018090


考察
溶性実験の段階で「溶けることはあっても乾燥すれば問題ない」という結論を出そうかとも思いましたが、
どうやらそうでもないようです
見た目には変化のない組み合わせでも、実際に負荷をかけてみると影響が表れていること示されました

わかりやすいように表にして耐久力を数値化してみましたが、あんまり当てにしないでください
「なんと耐久力が半分以下に!」なんて見えますが、折るために曲げているんで力加減なんか適当です
あくまで人力で負荷をかけた一例として参考にしてください
そもそも3mmプラ棒というものが丈夫なのだともいえます

なお、PE素材は乾燥後に曲げたりしても全く変化はありませんでした



とにかく「溶剤がプラをもろくするってどういうこと?」という疑問を解決するための実験でした
結論としてはしっかりと乾燥させていれば影響は限定的ということです

今回の実験では“溶剤に30分以上浸す”という通常の塗装時にはまずありえない極端な状況を作っています
通常の“表面に塗る”程度の塗装ではここまでの影響は出ません

しっかり乾燥させる”ということをもう少し噛み砕くと、
1.乾きにくい奥まった部分には塗料、溶剤が流れ込まないようにする
2.溶剤を使う塗装法(ウォッシングやスミ入れなど)は下地を保護してプラに侵食しないようにする
3.できるだけ待つ

という3点を守るということです

極端にいえば、「塗装前は全部バラす」「溶剤は使わない」「塗装したら1か月待つ」
…なんてのもありといえばありです
そこまでせずとも、上記の3点を意識するだけでもパーツの破損は十分に防げます


微妙に違う溶性と耐性
共通する部分も多いのでまとめて実験、編集することにしました
長くなりましたが、ここまでご覧いただきありがとうございました


[参考]ABSについて
最後に独学ですがABSについての一考察を。
ABSはAcrylonitrileとButadieneとStyreneが混ざったプラスチックです。
ABSにはAを多く、またはSを多くすることで軟らかくしたり硬くしたりすることができる特徴があります。
その特徴ゆえ、同じABS表記であってもアルコールに弱いABSや、アクリルに弱いABSがあります。
今回の実験で使ったABSと他のABSが同じ性質とは限りません。
おそらく近い反応を示すとは思いますが、ご注意ください。
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[ 2015/08/08 00:00 ] 楽しい実験シリーズ | TB(0) | CM(0)

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